2015.12.16
型装飾瓶などと愛想の無い呼び方をされていますが、ガラス関係の展示の最後に置いてある優美な姿のガラス瓶のことです。当館所有のペルシア関係の美術品の中でも特に強く印象に残る物の一つです。中近東文化センターの展示物としては、非常に新しく、18・9世紀の作品です。この18・9世紀というのは、中近東のガラス工芸の歴史から見ると、全般的な衰退期なのだそうですが、この瓶は、そんなことにはおかまいなく、存分にペルシア美術の高いレベルを体現しています。そもそも、ペルシアは、当館の多くの展示物からも解るとおり、歴史的にずうっと優れた芸術作品を排出して来た地域です。紀元前4千年紀の彩文土器に始まって、各時代毎に剋目すべき傑作を生み出して来ました。この型装飾瓶もその伝統の力を見事に示しています。
ガラス研究の専門家の観点からすると、この作品にはそれほど注目すべき点はないようですが、造詣としては、かなり意表をついた造りになっています。形が非常に不安定で、今の形からほんの少しでも瓶の頸をくねらせたり、全体の大きさや厚さを変化させたりしたら、たちまちひっくり返ってしまいそうです。美しいと感じさせるギリギリのところでバランスを取っています。ということは、この瓶はあまり実用的な物ではないということになります。チョッと触っただけでひっくり返るようなガラス製品は、日用品としては、危なくてとても使えません。
一般的には、この瓶は香水を撒くために使われたと説明されています。確かに、広い邸宅の広間でお客さんの来る前に香りを整えるために、この瓶に満たした香水を散布したというのは、ありそうなことに思えますが、それでも、振り回していて何処かに当たったらパリンと割れてしまいそうな風情です。それ位なら、涙壺という別の説明の方がよりふさわしい雰囲気がありますが、これほど大量の涙をためるのは、それはそれであまり現実的な想像とは言えません。どうも、詮索を止めて、その姿の美しさを鑑賞するしかないようです。
では、皆様良いお年を!! 平成27年12月16日 羊頭
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