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2016.12.21

今月の一品(21)聖樹双獣文坏

 今年の漢字は、「金」だそうですから、私も金製品で今年を締めくくろうと思います。金は、遠い昔から貴重な金属として扱われ、富の象徴と見られて来ました。また、金で作られた物が幸運をもたらすと考える人も多いようです。

 そこで、展示室の「工芸品の歴史」のコーナーのド真ん中に、展示してある金の坏を取り上げます。紀元前1000年頃にイランのマールリークで製作されたと伝えられています。紀元前1千年紀初めのイランには、既にある程度の文化・工芸技術があったことが知られていて、かなり手の込んだ土器や青銅器の出土が報告されています。マールリークというのは、イランの北部カスピ海沿岸のギーラーン州にある遺跡で、この遺跡にある当時の有力者のお墓からも、金製品などが出土したと言われています。この坏もそうした出土品の一つと考えられたのでしょう。

 坏の内側を覗き込んでいただけば分りますが、この細工は内側から打ち出して大まかな形を作り、細かいところは表面を彫り込んで仕上げています。

 坏の側面に描かれている図柄は、大きく後ろに反った角とアゴヒゲを持つ二頭の動物(双獣)の前後に一本ずつ聖なる樹が生えているというものです。二頭が山羊なのか羊なのかそれともカモシカなのか私には解りませんが、それぞれ首をひねって後ろを見ています。聖なる樹は、上の部分が扇型になっていて、大きな枝が左右二本ずつ張り出しています。下の方の枝は、動物たちの脚の間に入り込んでいて、木の形としては少し不自然な感じです。マールリークの遺跡のあたりでは、昔からオリーブの栽培が盛んだそうですから、オリーブをモデルにした可能性は高いと思いますが、そう言い切れる描写でもありません。

 鏡が置いてあるので解りますが、坏の底には、八つの弁を開いた花模様が描かれています。これも、マールリーク遺跡出土の金製品に多い模様だそうです。ただ、他の出土品では、花模様の中心に太陽があることが多いそうですが、この坏は花模様だけです。その意味では、少し簡略化された例ということかも知れません。

 この坏をどのように使ったのでしょうか。金というとても貴重な素材を使ったものであることや、器としてかなり薄い造りであること、そしてお墓からの出土品の可能性が高いことを考えると、実用品というよりも死者にお供えした儀礼的な品だったのではないかと考えられます。でも、死んでからでも、金の坏を身近におけるなんて、少しうらやましい気がしないでもありません。

 

 それでは皆様良いお年をお迎え下さい。        平成28年12月21日 羊頭

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