2016.01.26
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
今年の最初の一品は、牛頭型リュトンです。博物館のロビーに展示されている動物たちの粘土像群の中の一つです。紀元前8世紀の作品ですが、その写実力はなかなかのものです。頭絡を着けていることから、家畜化された牛であることが解ります。これを作った人は、おそらく牛と一緒に暮らしていて、日々の牛の表情の一場面を切り取ってこの像に顕したのではないかと思われます。この像の説明には、ウラルトゥで作られたリュトンと書いてありますが、ウラルトゥという地域も、リュトンという物も、チョッとなじみの薄い存在ではないでしょうか。
ウラルトゥとは、紀元前9世紀から8世紀にかけて、トルコ東部のワン湖のあたりを中心に現在のアルメニア、イラン、ジョージア、イラクあたりまで版図を広げた強国でした。聖書のエレミア記に『バビロンを攻める連合軍にアララテなどが加わった』という記述がありますが、このアララテというのがウラルトゥのことだと言われています。ノアの箱舟の流れ着いたアララト山の名前もこれに由来するそうです。そう言えば、アララト山は、ワン湖の北東方向に聳えています。ウラルトゥは、その最盛期には、アッシリアと張り合うほどの力を持っていたということですが、その遺跡が現在の国境をまたいであちこちに存在していて全体像を把握し難い所為か、人々の間にあまり強い印象を残していません。ワン湖の辺りにも、ウラルトゥの遺跡があるのですが、現地を旅行でもしない限り、あまり話題に上がりません。
リュトンというのは、上の方に少し大きめの注ぎ口、下の方に小さめの流出口のある容器です。古代の絵などから、この容器を通してお酒などを飲んだことが解りますが、上の口に注いだ飲み物はすぐに下の口から流れ出てきますから、ひどく落ち着かない飲み方になります。また、土地の鎮めなどの際にも、リュトンを通して液体を地面に注ぐことによってお祓いをしたと言われています。古代の人々は、液体をリュトンに通すことによって液体が清められると信じていた、というのが通説ですが、本当でしょうか。そんな面倒なことをしなくても、事前に液体を瓶などに入れて祭壇に上げ、神様にお祈りをしておけばちゃんと清められるのではないかと思うのですが。でも、このようなリュトンは、かなり広い地域で、相当長期間にわたって使われていたようですから、現代の合理だけでは判断しきれない、古代の人々の気持ちに訴える何かがあったのだろうと思うほかありません。 平成28年1月26日 羊頭
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