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2016.07.29

今月の一品⑯ムステリアン・ポイント

 以前、シリア出土の鉢型土器をご紹介しましたが、その並びにあるケースの中にある石器の一つです。シリアのデデリエという洞窟遺跡から出土しました。

 ムステリアンとは、フランス南西部のル・ムスティエ遺跡に由来する語で、「ムスティエ型」とでも言う程の意味です。このル・ムスティエ遺跡から出土した石器がヨーロッパの旧石器時代の一時期を表す典型例と見做されて、このような呼び方ができました。ポイントの語は、尖頭器とか打突器とか訳されることもありますが、要するにとんがった物という意味で、合わせて、「ムスティエ風の尖った石器」ということです。

 ムステリアン・ポイントは、材料の石を打ち割ってできた破片を更に敲いて三角形に仕上げながら刃を付けるように作るのだそうです。とは言っても、素人には、どういう点がムスティエ型の特徴なのか、よく解りません。また、どんな尖り方がポイントと分類されるのかも解り難く感じられます。早い話、直ぐ傍に置いてあるサイドスクレーパーとそんなに違うようにも見えませんし、横に並んでいるドゥアラ遺跡出土の剥片石器との差もよく解りません。でも、石器を専門に研究している方々には、かなり判然とムスティエ型石器の特徴が見え、また、その機能分類も自然に解るのだそうです。この尖った石器を実際にどう使ったかも厳密には解りませんが、この時代、用途別に沢山の石器が用意できたとも思えませんから、一つの石器でも、時によって、武器や狩猟具に使われたり、革剥ぎ道具として使われたりしたのではないでしょうか。

 ムスティエ型石器は、ネアンデルタール人の遺跡から出土することで有名です。ムステリアン石器をネアンデルタール人だけが使っていたのかどうかは、完全には証明し切れていないようですが、多くの場合、ネアンデルタール人がムステリアン文化の担い手であると言われます。展示してあるムステリアン・ポイントが出土したデデリエ洞窟からも、ネアンデルタール人の幼児の骨格化石が殆ど完全な形で見つかっています。デデリエの洞窟遺跡は15万年前から5万年前とされる中期旧石器時代の遺跡ですが、実際には、前期旧石器時代末から歴史時代まで断続的に使われていたことが調査によって明らかになっています。ということは、ネアンデルタール人だけでなく、我々の祖先の新人(ホモ・サピエンス)もこの洞窟に住んだことがあるということになります。ネアンデルタール人は、3万年位前に絶滅してしまったとされる人類で、新人とは別の種類だとされていますが、いくつかの研究でも、両者が同時期に同地域で暮らしていた可能性があるとされています。もしそうだとすれば、デデリエ遺跡周辺もその候補かも知れません。両者が行き逢った時にどのように反応したのか、ちょっと見てみたい気がします。平成28年7月29日 羊頭

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