HOME > ニュース一覧 > 今月の一品(22)白地藍彩双鳥文皿
2017.01.20
皆様あけましておめでとうございます。
今年は酉年ですから、鳥の模様の描かれた物をご紹介することから、今年の「今月の一品」を始めましょう。
今回取り上げる「白地藍彩双鳥文皿」は、「文化交流と交易」のコーナーの最後のケースの中に置かれています。このお皿は、当センターの所蔵品の中でも最も学術的価値の高いものの一つです。それは、製作年と製作地が明記されているからです。製作年と製作地が分かれば、この様式の陶器の歴史上の位置づけを確定できますから、研究の為の良い手掛かりになります。お皿の周辺を囲んでいる青い帯に文字の書かれた囲みが6つありますが、製作年と製作地は、2羽の鳥の頭の方にある囲みの中に記されています。製作年が929年、製作地がニーシャプールと書かれています。この929年は、イスラーム暦ですから、西暦に直すと1523年から24年にかけての時期、つまり、ペルシアでは、サファヴィー朝の先駆者たちがオスマン帝国の下で支配権の確立に向けて苦闘していた時代に当たります。ニーシャプールは、イランの北東部にある街で、セルジュク朝の頃には陶器生産地として栄えましたが、1221年モンゴルによって徹底的に破壊されます。そのような背景の下にこのお皿を眺めると、ニーシャプールが陶器生産地として破壊から復活したことが浮かび上がって来ます。
このお皿の模様は、当時人気のあった中国製の白磁青花(染付)を真似したと考えられています。陶磁器は、当時の中国の主力輸出品で、中でも藍色の文様を器面全体に描いた青花磁器は、中近東の市場でもてはやされた人気商品だったそうです。中近東の交易拠点の遺跡からは中国製青花磁器の破片が多く出土します。ペルシアの陶工たちは、同じものを作りたいと考えて色々工夫したようですが、ペルシアには、磁器の原料となる陶石が見当たらず、また、窯の構造や燃料の制約などもあって、うまく行きませんでした。そこで、陶土を材料とする硬質陶器に白磁青花に似た模様を描いたのだそうです。
面白いのは、このお皿とよく似たデザインの扁壺が英国のヴィクトリア&アルバート博物館にあるのです。多くの人は、両者が同じ作者によって作られたと推測していますが、その扁壺には930年と書かれているそうです。異なっているのは、このお皿には2羽の鳥が描かれているのに対して、アルバート博物館の扁壺には1羽しか描かれていないそうです。更に、このお皿にはペルシア語で明るい調子の詩が記されているのに、英国の壺の詩は暗い調子で書かれているそうです。1年の間に作者にどのような心境の変化があったのかは解りませんが、色々と想像を掻き立てられる事柄です。 平成28年1月20日 羊頭
Copyright © 2013 The Middle Eastern Culture Center in Japan. All rights reserved.