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2017.08.30

今月の一品(29)ウアジェト

 前回に続いて、古代エジプトの神様です。麦とパンのコーナーに置いてある展示ケース内に、3体の小さいコブラのファイアンス像があります。これがウアジェトです。前回のアヌビスと同じように、動物のままの姿で表された神様です。アヌビスは男神でしたが、ウァジェトは女神です。

 この女神は、古代エジプトの神様の中でも古株で、カイロ付近から下流のナイル川デルタ地帯(下エジプト)の守護神として敬われていました。確かに、河口地帯の湿地には、コブラがウヨウヨいたでしょうから、もっともな連想と言えるでしょう。ナイル川の上流部分(カイロからアスワン辺りまで)は上エジプトと呼ばれ、ハゲワシが象徴でした。古代エジプト王国は、これら二つの地方を構成要素とする連合国家と認識され、王様は、正式の場では、「上下エジプトの王」と呼ばれ、二つの地方を表す象徴を身に着けました。ツタンカーメン王の黄金のマスクの額部分にハゲワシとコブラが飾られているのがその有名な例です。普段被る王冠も上エジプトを象徴する白色のものと下エジプトを表す赤いものとを合わせた赤白帽でした。こういったものを身に着けることで、王様はその権威と正当性をアピールしたのです。

 展示してあるウアジェトは、この神様の姿を写したお守り(護符)です。胴体の盛り上がった部分に丸い穴の開いたつまみがついていますから、ここに皮紐などを通して身につけていたと思われます。肋を広げ、鎌首をもたげて立ち上がった姿の前面には、蛇の腹側の鱗が丁寧に描かれており、手を抜かない細工師の業を見せています。ウァジェトは、下エジプトの守護神であるだけでなく、このようなお守りとして危険な敵に対した場合には、その目から炎を浴びせて、持ち主を護ったということです。

 因みに、古代エジプトの壁画などには、「ウアジェトの眼」というシンボルが多く見られますが、これは、ホルス神が親の敵討ちの時に失った左眼を表しているのだそうです。エジプト神話では、この眼が全国を旅して経験を積んだ後、ホルスの眼に戻ったというところから、経験に裏付けられた「知恵」や「再生」の象徴として扱われたということです。目玉がコロコロと一人で旅をして経験を身に着けるなどというアイデアは、なかなか秀逸で、古代エジプト人の発想の奇抜さを伺わせます。この眼がウアジェトの名と結びついた理由はよく解りませんが、あるいは、上記のような不思議な魔力を連想してつけられた呼称かもしれません。

 蛇というのは薄気味悪い生物で、一般的には嫌われ者ですが、不気味なだけに霊力も強いと思われたらしく、時代を問わず、世界のあちこちで崇拝の対象とされています。                 平成29年8月   羊頭

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