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2017.11.28

今月の一品(32)大洪水物語粘土板(複製)

「中近東の文字の世界」のコーナーに並べられている粘土板の一つです。「今月の一品」で紹介する初めての複製品です。博物館の展示では、展示の意味をよく理解していただくために、本物を入手できない場合には、原物に忠実に作られた複製品を用いることが良くありますが、これもその一つです。この粘土板の本物は、19世紀末にペンシルヴァニア大学の調査団がニップールで発見し、ペンシルヴァニア大学の博物館が保管しています。

 書かれている内容は、「至高の神エンリルが洪水によって人間を滅ぼすことを決めたが、エンキ神がジウスドラ王にそのことを告げた。7日7夜嵐が荒れ狂い、洪水が起きた。洪水がおさまり、太陽が顔を出すと、ジウスドラ王は感謝の犠牲を捧げた。」という話で、旧約聖書の「ノアの箱舟」とそっくりです。実は、こういう「ノアの箱舟」の原型のような物語は、神様や王様の名前が違うだけで、古代メソポタミアの各地に伝えられています。

 この事実を最初に明らかにしたのは、ジョージ・スミスという英国の考古学者です。彼は大英博物館にあったニネヴェ出土の粘土板の中から、大洪水物語の書かれているギルガメシュ叙事詩の一部を発見し、学会に発表して大きな反響を巻き起こしたということです。ただ、その時の粘土板は、冒頭部分が十数行欠落していました。その後、彼は、ニネヴェを訪れて発掘を行いますが、そこで、欠落をピッタリ埋める粘土片を見付けます。稀有な幸運と言えるでしょう。そのジョージ・スミスの粘土板は、ニネヴェにあるアッシュルバニパル王の図書館跡から出たとされていますから、紀元前7世紀頃の物ということになります。他方、ここに展示してあるニップール出土の粘土板は、ペンシルヴァニア大学博物館の記録では、紀元前17世紀頃の(シュメールの時代の)物とされていますから、こちらの方がずっと古いことになります。

 実は、メソポタミア各地の遺跡では、この伝説の大洪水の痕跡が見つかることがあるそうです。多くの遺跡では、色々な遺物の混ざった土が時代ごとの層を成して重なっています。そのような遺跡を掘り下げて行くと、紀元前3千年紀や4千年紀の所で、かなり厚い粘土層に行き当たることがあり、そこからは殆ど遺物が出て来ないそうです。そして、その粘土層をさらに掘り下げると、また、遺物の出る層が現れるということです。この粘土層が大洪水によって作られた堆積層なのです。遺物が出るということは、人々が生活していたということですから、厚い粘土層を作った大洪水の前にも後にもその土地では人が暮らしていた、ということになります。しかも、場所によって、この大洪水の痕跡の時期が違う例が見られるそうですから、人間は、古代のメソポタミアのあちこちで、何度も神様に叱られたということになりそうです。  平成29年11月  羊頭

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