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2018.01.27

今月の一品(34)モザイク小片

 皆様あけましておめでとうございます。

 今年の干支にちなんで、年の初めの「今月の一品」には犬に縁のある物を取り上げましょう。以前紹介したアクエンアテンの横顔などのガラス製品と並んで、一群の小さなガラスのモザイク片が展示されています。そのモザイク片の中で、下の段の右から2つ目にイヌ科の動物の横顔があります。アヌビスと言われています。アヌビスというのは、昨年の夏に紹介した古代エジプトの神様で、ジャッカルないしは犬の顔姿をしています。

 この一群のモザイク片はどれもとても小さいのですが、細かい絵柄をガラス細工の断面に見事に浮かび上がらせています。古代エジプト文化とギリシャ・ローマ文化の融合を示すと言われるこれらの作品は、古代エジプト最後の王朝・プトレマイオス王朝時代のアレクサンドリアにいたガラス工芸師が得意としていたと伝えられています。

 モザイクと言うと、床や壁、あるいはお皿などに、色の付いた小片を組み合わせて嵌めて図柄を浮き上がらせるものを思い浮かべますが、ここに展示されている物は、それ自体で一つの完成された文様を表しており、これらをさらに組み合わせて別の模様を作ったとは、あまり考えられません。多くの解説書は、これらの小片は、象嵌の材料として使われた、と説明しています。確かに、こんな小さな物が単独で使われるとは思われませんし、小片の周囲に接着剤や他の材料の痕が付着している物もあるようで、もっと大きな何かに嵌め込んで使ったという説明は納得できます。ただ、実際に、何処に、どんな形で、嵌め込んだのかということは、よく解っていないようです。

 このモザイク片は、色ガラスの棒を、断面がこの図柄になるように組み合わせた上で、金太郎飴のように引き伸ばして溶着させ、それを輪切りにして作ったということです。展示してあるモザイク片の横面の部分がこの作り方をしたことを示していますが、そうだとすると同じ模様の切片がかなり沢山できた筈です。そんなに多くの小さなアヌビス神の横顔を、どんな場所に、あるいはどんな物にペタペタ嵌め込んだのでしょうか。神様の横顔ですから、床に貼って踏んづけるのは不適当でしょうし、壁からギロギロ睨まれるのもあまり楽しくはないと思います。アヌビス神は冥界と縁の深い神様ですから、やはりお葬式の場か、或いはご先祖様をお祀りする場所の装飾品というあたりが無難な想像ということに落ち着きそうです。

 いずれにしても、様々な色合いに変化するガラスを巧みに組み合わせて、このような模様を編み出して製品化した古代エジプトの職人たちの技と知恵には感嘆するしかありません。     平成30年1月27日 羊頭

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