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2018.02.27






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   一段目

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   三段目

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   最下段

今月の一品(35)矢筒覆い

 以前ご紹介したアケメネス朝ペルシアの儀仗兵像浮彫と同じケースに展示されている縦長の青銅製品です。儀仗兵像浮彫は紀元前65世紀の物とされていますが、この矢筒覆いはそれより古い、紀元前97世紀の作品と考えられています。時代区分で言えば、アケメネス朝の前のメディア王国時代の物で、ルリスタンで出土したと記録されています。

 この青銅板には、紐を通したと思われる大きめの穴が左側に4つ、釘を打ち込んだと思われる小さな穴が上下の端に多数見受けられます。これらを使って、この板を革又は木でできた矢筒()の外側に固定したと考えられます。貴重な武器である矢を入れる矢筒は、戦闘中の激しい動きでも壊れないように、このような筒覆いで補強していたのでしょう。

 因みに、青銅という金属は、初めからくすんだ青緑色をしているわけではありません。金属製品のコーナーに置いてある金属板のサンプルを見ていただけばお解りいただけると思いますが、初めは銅色の強い、赤系統の輝きを持っています。ですから、この矢筒覆いも出来立ての頃は、赤銅色のかなり派手な物だったと想像されます。勿論、遠征などで、山野を歩き回っているうちには、錆びて現在のようなくすんだ青銅色になったでしょうが、作った時には相当目立って、兵士の武器の装飾としても華やかに見えたことでしょう。

板の表面は、五段に分けられていて、一段目、三段目、五段目に紋様が描かれています。二段目と四段目は空いているようです。

一段目には、鳥の頭をした有翼の精霊が向かい合っています。右手は敬意を表すために挙げられており、左手には小型のハンドバッグの様な物をぶら下げています。物の本によるとこのハンドバッグは浄水桶だそうです。実はこれとよく似た絵柄が、近くの壁に立ててあるニムルドの王宮壁の浮彫の写真パネルにもあります。こちらの浮彫の精霊は、髭モジャの顔をしていますが、やはり右手を掲げて、左手に小型ハンドバッグをぶら下げ、背中に翼を備えています。三段目には、アゴヒゲを生やした兵士が二人、弓を持って右の方に向かって歩いています。最下段には、有翼の雄牛が左向きに立っています。グリフィンと思われますが、メソポタミアの各地で出土する人面有翼獣の像とよく似たイメージで描かれています。このように、これらの絵柄には、ニネヴェやニムルドと共通するところが多いことから、アッシリアの影響が強いと言われています。事実、紀元前97世紀頃は、アッシリアがこの地域の最強国であり、ルリスタンは、アッシリアとメディア王国の国境地帯だったのですから、この傾向も理解できます。人によっては、この矢筒覆いは、アッシリアの物がルリスタン地方に持ち込まれたのだと主張している程です。

平成30年2月27日 羊頭

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