公益財団法人 中近東文化センター|中近東の歴史的文化の研究と発表

ニュース

ニュース

HOME > ニュース一覧 > 今月の一品(40)イラン・ガレクティAV号墓復元模型

2018.07.31

今月の一品(40)イラン・ガレクティAV号墓復元模型

 博物館の奥の方に立っている発掘されたお墓の原寸大の模型です。人骨が目立つ大きなもので、来館された多くの方々が「何だろう」と不思議そうに立ち止まって御覧になります。これは、東京大学のイラク・イラン遺跡調査団が1960年に発掘調査を行ったデーラマン地方の遺跡の中の一つであるガレクティ遺跡A区の中心的な墓であるV号墓の様子を映しとったものです。

 デーラマン地方というのは、カスピ海南側のエルブルズ山脈が少し途切れたあたりのことで、古代から交易の拠点となっていた地域だそうです。このあたりからは、多くの遺物が盗掘されて市場に出回ったということで、東大の調査団もそういう噂の根源を探って行って、この地域の遺跡に行き当たり、その中で比較的盗掘被害の少なそうなお墓を発掘したのだそうです。

 このV号墓はA区にあったいくつかのお墓の中で、最も大きく、造りも丁寧で、副葬品も豊富だったそうです。そんなことから、周辺のお墓は、このV号墓の人物の死去に伴って、殉死などの形で同時期に葬られた人々のものではないかと言われています。

 お墓というのは、考古学者にとっては宝の山です。亡くなった人のために、良い物、大切な物を一緒に埋葬したくなるのは今も昔も共通の人情です。ですから、盗掘されていないお墓の中には、その当時の文化や産業のレベルを代表する品物がまとまって納められていることが多いのです。そして、それらの物の様式などから、お墓や埋葬された人物の年代なども読み解けるのです。

このお墓の模型は、考古学者が発掘作業を進めているときに出会う状況を少しでも皆さんに経験していただきたいと思って展示してあります。

 このお墓の模型を見て、まず目につくのは、埋葬された人物の奇妙な姿勢です。仰向けなのはよいとして、両膝を曲げて左右に開いた姿勢というのは、かなり不自然です。この姿勢は、埋葬の際に意図的になされたようで、発掘した時の埋土などの状況もそのことを伺わせるものがあったということです。この埋葬姿勢は、ロシア南部や東欧に類似の例があるそうですが、どういう考え方の下に行われたのかは、必ずしも判然としていないそうです。

 また、遺物たちも、様々なことを物語ってくれます。例えば、頭蓋骨の左側には、輝石類が散らばっていますが、これはどうやら首飾りだったようです。頭の脇にある金の板は飾りの額金だったと解釈されています。腕輪や足輪も着けていますし、胸の部分にも金の薄板の帯が残っていて、これは服に着けられていた飾りだろうと言われています。色々飾り立てられて埋葬されていて、地位の高い人物だったことが窺われます。

皆さんも、考古学者になって、このお墓の謎を読み解いてみませんか。

平成30年7月                                    羊頭

ニュース一覧

PAGETOP