HOME > ニュース一覧 > 今月の一品(45) 帝王胸像
2018.12.25
平成の時代も終わろうとしている今、世の中では、皇位について、様々な意見が交わされています。そこで今回は、遠い昔の大帝国の支配者に思いをはせてみることにしました。5~7世紀のサーサーン朝ペルシアの帝王の胸像です。今年の5月にお話しした「サーサーン朝硬貨」の向かい側に最近展示されました。サーサーン朝の王様たちは、自分の治世に発行する硬貨に自分の肖像を刻ませたので、硬貨の肖像は、時代を比定する手掛かりになるとお話ししましたが、両者を見比べながら、この胸像の主を推理してみましょう。
この胸像の冠を見ると、髪を結いあげたコリュンボスが付いていること、向かって左側の部分は欠落し、右側も上半分は欠けているものの、羽根様の飾りが左右に張り出していたと思われること、そして、前面に三日月の飾りが二段になって付いていることなどの特色が見て取れます。これらの特徴が全て合致する硬貨像の冠を探してみると、ペーローズ王のものに行き着きます。羽根様の飾りは、フスラウ二世以降の王様の冠によく出て来ますが、これらにはコリュンボスが無かったり、三日月の上に星が乗っていたり、冠の形状がかけ離れていたりします。ペーローズ王以前の王冠には、羽根の付いたものはほとんどありませんし、付いているものには三日月が見られません。この胸像の以前の持ち主だった石黒孝次郎氏は、ペーローズ王と併せて、カワード一世の可能性も挙げておられますが、カワード一世の冠飾りは、羽根であるとしてもかなり形が異なっています。ということで、これは、ペーローズ王の胸像と考えてよいように思います。
実は、この胸像と瓜二つといっても良いような胸像が、ルーブル博物館にもあります。写真で見ると、ルーブルの物は、羽根様の飾りが両側に張り出した完形で残っていて、良い形で保存されています。これら二つの像の顔立ちはよく似ていて、杏型の眼、直線的な鼻、細く上方に捻り上げられた口髭、編み込みでまとめられた顎鬚、かなり大ぶりの連珠の首飾り、相対的に引き締まった顔つきなどは、ほとんど同じに見えます。他方、像それぞれの摩耗の度合いや傷の付き方が違うので、簡単には比較できませんが、コリュンボスの髪の整え方や冠の三日月の尖り具合などには差があるように思われます。ルーブルの物はマーザンダラーン州ラデュヴァルド出土とされており、一方こちらの像は、隣のギーラーン州出土と伝えられています。製作年代とされる5~7世紀の青銅製品は、その多くが後世かなり鋳潰されたと言われることを考え併せると、「ペーローズ王、よくぞ生き残って下さった!」と掛け声をかけたくなります。
それでは皆様、どうか良いお年をお迎え下さい。
平成30年12月25日 羊頭
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