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2019.01.15

今月の一品(46) 書記像頭部

 皆さん、明けましておめでとうございます。

 今年の一品も、新しく展示された作品をご紹介することから始めましょう。以前、銘文付き焼成煉瓦をご紹介したことがありますが、今回の書記像頭部は、そのケースで入れ替わってお披露目されました。書記というのは、大部分の人が文字を読めなかった時代には、特別の知識と技能を持った高級専門職と見られていましたから、それをモデルにした像も多く作られたようです。ルーブル美術館やカイロのエジプト博物館などに優れた作品が収集展示されています。この書記像頭部も、黒い石に刻まれていますから、目を凝らして見ないと細部が解り難いのですが、古代エジプトの製作物らしい佳品と言えるでしょう。

 ただ、この像には、いささか謎めいたところがあります。まず気になるのは頭の左右に大きく広がっている被り物です。エジプトの頭巾というと、ファラオの被っていたネメスが有名です。カイロ博物館のツタンカーメンの黄金のマスクに見られる金と青の縞模様のあれです。でも、ネメスは王と男神しか被れなかったそうですから、書記が被っている筈はありませんし、古代エジプトの書記像は、一般的に被り物は着けていません。ルーブルの書記はかなり短く刈り込んだ胡麻塩頭ですし、カイロの方はカツラかと思われるほど豊かな黒い髪を中央で分けて左右に垂らしています。これらの像は、どちらも彩色の全身座像ですから、頭の色も解りやすいのですが、この像と同じ他の単色石造の書記像でも、頭は地毛又はカツラと思われる形に作られています。他方、ネメスのような頭巾が突然考案されることもちょっと考え難いですから、ネメス以外の色々な被り物が日々人々によって使われていたことは考えられます。ですから、この書記も何かの都合で愛用の頭巾を被っていたのかも知れません。或いは、そんなことは考え過ぎで、単に、豊かな髪の毛が肩に垂れているのを少し簡略に表現しただけということもあり得ます。

 もう一つ戸惑うのは、丁度、欠けている部分との境目で見え難いのですが、あごの下側、特に向かって右のあごの下側に何かが存在するかのような造形の名残が見えることです。普通であれば、あごの下は何も無く、ひっこんで首につながって行くのでしょうが、この像は、あごの下に何かがあったように見えます。髭とか、衣服の襟とかにしては、位置がちょっと不自然に思えます。手の甲にあごを乗せるとこんな感じになるようにも思いますが、そうするとこの書記はどんな姿勢をしていたのでしょうか。一般的な書記像は、いずれも胡坐を組んで座り、膝の上に巻物のパピルス紙を広げた職業上の執務姿勢をとっていますが、この像は違うのでしょうか。

ヒョッとしたら書記像という想定自体が、全くの間違いなのかもしれません。

平成31年1月         羊頭

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