公益財団法人 中近東文化センター|中近東の歴史的文化の研究と発表

ニュース

ニュース

HOME > ニュース一覧 > 今月の一品(47)神官像

2019.02.27

今月の一品(47)神官像

 今回の一品は、新しく設けられたパキスタンに関わるコーナーに展示されている神官像です。インダス文明の代表的な遺跡と言われるモヘンジョダロから出土した作品の複製で、モヘンジョダロの出土遺物としてよく紹介されているものです。皆様も教科書などで「神官王像」などの名称で載っているのを目にされたことがあるのではないでしょうか。

 原作品はカラチの博物館にあるそうですが、この複製品がどうして当博物館にあるのかは、正確には解りません。由来としては、三笠宮崇仁殿下の研究室から引き継いだ物と記録されていますから、三笠宮殿下がモヘンジョダロを訪ねられた時(1973)か、モヘンジョダロ遺跡修復のための会議が東京で催された時(1984)に、隣に展示してある印章押型(複製)と併せて入手された可能性が高いと思われます。

 さて、この像、神官像(或いは神官王像)と呼ばれているのですが、どういう宗教のどういう役割の人を表しているのかとなると、皆目見当がつきません。遺跡の年代推計から、紀元前27世紀から紀元前19世紀の間の作品ということは言えても、その頃モヘンジョダロの地にどんな人々がどのように暮らしていたのか、そしてその人々の宗教がどのようなものであったか、あまりにも漠然としか解らないのです。その一つの大きな原因は、遺物に刻まれた文字が解読されていないということにあるそうです。モヘンジョダロの遺跡の説明などには、浴場、井戸、排水溝といった記述が多くありますが、実は、これらの場が日常の用に供されていたのか、それとも何かの宗教的な儀式に使われていたのか、といったことについても断言できないのだそうです。ものの本によると、インダス文明の遺跡には、王宮や神殿が見当たらないということですから、神官とか王とか言っても、そういう立場の存在すら確認できないということになります。でも、この像を見ると、立派な髭が整えられていますし、いささか後退気味の撫でつけられた頭髪の前額には飾りのついた鉢巻を着けています。右腕にも額と同じような飾りのついた腕輪をしていますし、片肌脱ぎで着ている衣服にも手の込んだ模様が描かれています。小さな布を織るのにも手間のかかったこの時代に、このような身なりをしているのですから、相当な地位にあった人物の像であることは推測できます。

 インダス文明がどうして滅んでしまったのかについて、喧々諤々の議論があるそうですから、あまり詮索しても無意味かもしれませんが、でも、インド半島の西部に、大昔、大きな文化圏があったということを、この像は雄弁に語りかけています。

平成31年2月              羊頭

ニュース一覧

PAGETOP