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2019.04.26

今月の一品(49)彩画人物文扉

 世の中は、平成から令和へと時代の扉が開くので、盛り上がっています。そこで、今回は扉を取り上げることにしました。博物館の出口の地図のボードの脇に、ケースに納められて立っている扉です。この扉、当博物館の所蔵品としてはかなり新しく、17世紀から19世紀の物と記録されていますが、それ以上の由来は、解りません。どのような建物のどのような位置に使われていたのかの記録も見当たりません。出口に近い方が表だそうですが、両面とも人物が描かれていて、偶像禁止のイスラムの戒律を考えると、大勢の人の眼に触れる公共の場や、住宅と外部との境の出入り口に設置されていたとは考え難いと言えます。また、4人とも、身に着けている衣装には、人物や鳥獣の模様が見えて、どうもイスラムらしくありません。画面の中央ですから、それなりの人物を配置しているのでしょうが、不思議と言えば不思議です。ただ、これまでにも何度か見てきたように、ペルシアという国では、意外に世俗的な図柄を使った作品が多く見受けられますから、一概に決めつけることもできません。

 この扉は、眺めていて飽きることがありません。扉に描かれている人物は、男も女もペルシアの伝統的な長衣をまとって、色々な所作をしています。それが様々な想像を掻き立ててくれます。例えば、表も裏も、扉の真ん中で、左右の扉の人物が、お互いに見合った形で立っていますが、このうち、表側の2人の表情は、目元の描き方のせいなのか、お互いを警戒しているように見えます。どういう関係なのでしょうか。画題が解らないのですから、あまり詮索しても仕方が無いのですが、勝手に想像するのには、格好の材料です。

 あちこちに踊っている姿が見られます。似た衣装の人物が対になって跳びはねているかと思えば、男性と女性が向かい合うように配置されて踊っているのもあります。画面中央の人物とよく似た衣装を着た人物が、悠然と舞っている部分もあれば、ペアダンスをしている組もあります。裏側左扉の上段と中段の間には、踊っているのか、「ご注進、ご注進」と駆けつけて来たのかよく解りませんが、2人が座っている間で、手足をバタつかせている人物がいます。

男女間の様々な様子が描かれている一方で、犬に吠え掛かられて困っていたり、借金取りに迫られて「困ったナ」と考え込んでいるようなものもあります。

 裏側左扉中段右欄外の円内には、花の香りを楽しむように鼻先に花を近づけて、花を愛でている人物が描かれています。この構図は、オスマン帝国のメフメット2世の有名な肖像画の構図にそっくりで、この時代の中東社会の人々は、花を観賞する時にその香りも大切にしていたのだろうと想像できます。

 扉の裏も表も、とにかく人生色々です。

令和元年4月                                    羊頭

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